【第6回フォーラムみんなが気持ちよく暮らせる社会】
2024年11月10日(日)13:00~16:00 テーマ:インクルーシブについて考える
基調講演:インクルーシブ教育システムにおける学校の在り方~〜現代のろう学校の存在意義から考える〜
講師:庄司和史氏 信州大学特任教授・松本市インクルーシブセンター運営委員長
※動画の手話通訳:百瀬瑞恵
(1)
新生児聴覚スクリーニングで難聴が発見された赤ちゃんたちの多くが0歳からろう学校に通い始めます。これは聴覚活用と言葉の発達に大きな効果があると考えられます。
難聴の早期発見に伴い、重度難聴の子供の3分の2は人工内耳を装用していると言われています。従来、文字や読話、手話によって言葉を覚えてきた子供たちが、言葉を聞いて覚えるようになったのです。しかし人工内耳さえすれば全て解決というわけではなく、やはり丁寧な指導が必要となります。
(2)
補聴器と人工内耳の発展により、装用下での子供たちの聴力は飛躍的に向上しました。
全国のろう学校数と在籍数は減少しており、教育活動に制限がかかっています。生徒はグループになって意見を出し合うことができず、部活動でもチームスポーツは成り立ちません。また教員数も減らされ、教科を受け持つ先生がいない、一人で何役も校務を担当しなければならないという問題が生じます。反面、少ない生徒に対して丁寧な指導は展開できやすくなります。
(3)
障害者権利条約によって初めて、手話は言語であると世界的に発信されました。障害者差別解消法では差別の禁止と合理的配慮の提供義務が定められました。近年の重要な変化です。
ろう学校で目立ってきているのが軽い難聴の子供たちです。早期に軽度難聴が見つかった子供たちがろう学校に相談に通い始めるためです。他の障害と重複する子供、医療的ケアを必要とする子供も増えています。もう一つ目立つのは、大学進学を目指す子供が増えていることです。全体的な学力が上がってきています。
(4)
障害のある子供と障害のない子供を一緒に学習させることは以前からあり、インテグレーションと言われていました。その根底にある考え方は「障害のない子供の教育が普通であって、障害のある子供は特別の配慮を求めるのではなく、自助努力すべき」というものでした。否定されるべき考え方です。対してインクルーシブ教育は「そもそもいろんな子供がいるのが当たり前。多様な子供たちが共生社会を担っていく役割を持っている」という考えからスタートしています。
(5)
インクルーシブを理解する上で3つの基本があります。1つは「障害は個人にあるのではなく社会の側にある」という社会モデルでとらえること。2つめは「障害のある無しに関わらず同じように生活できる条件を整えることが重要」というノーマライゼーション原理です。3つめに重要な考え方は合理的配慮で、「難聴のある人とのコミュニケーションがうまくいかないのは、その人に難聴があるからではなく、手話や手話通訳、文字を使わないから」というとらえ方です。
(6)
私たちは意識しなくても差別を行っていることがあり、差別意識は常に更新し続けなければなりません。合理的配慮は、とかく障害を持つ人のために行われていると思われがちですが、違います。一緒に感じ、ともに生きるためです。合理的配慮のベースは「何がしたいのか」です。当たり前の願いを実現するのが合理的配慮であり、実現させようとする考え方がインクルーシブ、ノーマライゼーションであり、インクルーシブシステムということになります。
(7)
コミュニケーションというものはむずかしいです。コミュニケーションは、聞こえている、聞こえていないにかかわらず、ちぐはぐになることはいっぱいあります。しかし、音というものに対処していくことによって、正確なコミュニケーションができていく可能性があります。難聴者の場合、支援者がいろんなことをやってしまうことがよくあることを覚えておいていただければ、と思います。
(8)
手話は言語です。しかし、現在、危機的状況になっています。ろう学校の数が減り、生徒数が減ってきて、ろう学校で手話を使う人がものすごく減ってきています。ろう学校は手話を守る必要があります。手話環境を整える拠点になっていただきたい。
ろう学校で、通級指導や早期支援が中心的な役割になりつつあります。保護者を孤立させないこと、集団学習ができるようになるための工夫をすること、重複障害や手話を使う子供、外国籍の子供を後回しにしないようにしていただければ、と思います。
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